自民党だって議員間に政策指向の違いくらいはある。

日本選挙学会が出している学会誌「選挙研究」より、建林正彦, 政権交代と国会議員の政策選択, 選挙研究, 2014, 30 巻, 2 号, p. 19-34 を読む。

選挙研究 第30巻第2号(2014年)―日本選挙学会年報

選挙研究 第30巻第2号(2014年)―日本選挙学会年報

 

 

 本論文は2012年に政権復帰した自民党議員がどのような政策指向を有していたのか,2012年総選挙の候補者に対する早稲田大学読売新聞社の共同サーベイをもとに,自民党議員の政策位置を分析したものである。

 

第1主成分は,対米重視, 憲法改正,防衛費の増額な どが大きな値を示しており, 公共事業費の増額(+)とTPP 賛成(-)が大きな値 を取って対立的な位置にあり,国内開発(+)対経済 開放(-)の軸と見ることができよう。第3主成分は, 値の大きい項目がなく,解釈が難しいが,二大政党制,マニフ ェスト型の政党政治への支持(+) と捉えることができるだろうか。最後に第4主成分は,多党制への支持とODA 支出増額が大きな値を示しており,国際協調,少数意見尊重へ の支持(+)と捉えることとする。(p.25)

 

  自民党以外の議員も含めた結果が以下である。

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建林(2014:24)

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建林(2014:25)

ここから分かるように、外交や憲法、経済政策は党派対立的だが、政党政治のあり方や少数意見の尊重などに関しては、党派対立的とは言えない。さらに本論文は、政党内部のシニアから若手の議員間の政策選好の違いも分析している。

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建林(2014:26)

自民党議員の主成分得点を従属変数とする詳細な回帰分析の結果は論文に譲るとして、2012年に大量に当選した新人議員とシニア(多選)議員の間には,安保・憲法にかかわる争点や,経済開放・国内開発に関する争点において立場の違いが存在し,シニア議員がよりタカ派的,国内開発的な立場を採っていることが明らかになった。

興味深かったのは、現職議員,非新人議員ほど,またシニアな議員ほど,外交・体制の争点でよりタカ派的な立場を取っていたこと、そしてより国際協調,少数意見尊重の傾向を持っていたことである。政策的にはタカ派で、スタンスとしては国際協調・少数意見尊重とはどういうことだろうか。

 

野党が共闘するというニュースを聞くたびに「野合」だという批判が聞かれる。しかし、与党であっても内部にさまざまな意見があり、当選回数や選挙区によっても政策指向が異なる議員を内包しているのである。重要なことは、党内に様々な意見が広範に分布しているにせよ、最終的に政党としてまとまれるか否かの政党ガバナンスの問題なのではないか。

 

非正規滞在者と入国管理行政

出入国管理法改正(本年4月施行)により、事実上の「移民政策」に舵を切ったと言われる日本。その前夜に刊行された 高谷幸『追放と抵抗のポリティクス』(ナカニシヤ出版、2017年)を読んでいる。

追放と抵抗のポリティクス

追放と抵抗のポリティクス

 

 

一つ面白いと思ったのが、非正規滞在者をとりまく法的環境について

「入管局は、他の法律の上位にあるものとして入管法を位置づけようとするのにたいし、運動は、入管法も労働法も、あるいは他の法律も同等のレベルのものとして位置づけようとしている。」(pp147-148) 

 という記述。つまりこういうことのようだ。

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高谷(2017:147)

高谷は言う。「入管局は、日本における外国人の権利は在留資格の範囲内で認められるという立場を貫いてきた。」その一方で、「労働や医療、地域生活の分野で支援運動が要求してきたことは、入管法を一つの法として扱え、ということである」(共に高谷 2017:147) 。

実のところこの運動側の戦略は、「2000年代半ばまで一定の有効性を持っていた」(高谷 2017:149)。たとえば、非正規滞在者の就学にあたっては居住地確認が壁になる場合があったが、文部科学省初等中等教育局長通知「外国人児童生教育の充実について(通知)」(2006年6月2日)。は「居住地等の確認を行う必要がある場合には、[......]一定の信頼が得られると判断できる書類による確認とするなど、柔軟な対応をすること」とされたのである。すなわち、在留資格がなくとも就学の道が開かれたのである。

 

こういう戦略は、入管からすればいまいましいことのようだ。元東京入国管理局長の坂中英徳(2005:32)は「タテ割り行政の弊害とでもいうのか。役所と役所のナワバリの隙間を突いて、法を守らない外国人が役所に列を作るという首をかしげたくなるような現実がまかり通っていた」との認識を示す。ここでいう”法”とは、もちろん入管法である。

 

縦割り行政の「生理」として、入管当局が狙う超越的な主権権力の作用を無効化する空間ができた。この「隙間」のような空間が、ときに非正規滞在者に居場所を与えた。つまり、ホモ・サケルの状況に置かれた非正規滞在者に「社会的な生」を付与する猶予を与えた。ここで与えられた猶予が、学校や職場を通じ非正規滞在者が日本社会に包摂される機会ともなり、その後の正規化に繋がった側面も見逃せない。

一方で、この4月に発足する出入国在留管理庁(入管庁)は「出入国管理部」に加えて、「在留管理支援部」の2部体制を敷く。

新たな業務として日本に暮らしている外国人の「生活支援」も加わり、具体的な施策について関係省庁の取りまとめや自治体との調整役を担う。(産経新聞2018.12.8)

在留する外国人の生活を覆う縦割りのもたらす多元性が、この「在留管理支援部」によって統合・一元化されていくのであれば、超越的な主権権力の作用が無効化される「隙間」はさらに狭まっていくのではないか。

 

もちろんこの「隙間」は、坂中ら入管行政マンにしてみれば犯罪組織の苗床であり人身売買の温床なのかもしれない。出入国管理法の改正のもたらず経済・社会的影響のみならず、入国管理行政体制の転換にもいっそう注目していきたい。

 

入管戦記

入管戦記